「破壊しに」
そう言って少女は屋上へ昇っていった。少年が追いついたときには、右手に持ったガラスのクギを地面へ向けて構えていた。
左手に握られたガラスのハンマーには、周囲のパノラマが丸ごと閉じ込められていた。滑らかな表面は夕日にきらめいていて、まるで街中を燃やし尽くしているようだった。
彼女は小さく息を吐いて、ハンマーを振り落とした。まっすぐな響きとともに、みんな粉々になってしまった。彼女の卒業制作は、コンクリートの校舎に傷一つつけられなかった。散らばった破片の一つ一つにはきっと、まだ風景が映っているのだろう。けれど、細かすぎてもう見えない。
風の音しか聞こえない。少女はただ佇んでいる。身動ぎ一つしていないのに、たなびいているかのように。
やがて大きく伸びをとった。ガラスのかけらをまとった腕が輝いて見えた。こりをほぐすように肩を揉みながら階段へ向かうその背に、少年は来たときと同じ言葉をかけるしかなかった。
「何をしに?」
けれど、もう風の音しか聞こえない。姿は消えてしまった。何一つ残さないまま。
さよならも言わず二人は別れ、それっきりガラスを砕くこともない。