男はベンチで『フラニーとゾーイー』を読んでいた。隣の学生は『人間の条件』を読んでいた。
「僕がマルローを原著で読んでいる時、君はそんなものを読んでいる。それも和訳したものをだ。もっといい本を読みなよ」
学生が男にそう言った。男はこう言った。
「マルローを原著で読むようになるまで何を読んできた? バルザックは読んだか? ゾラは? フローベールは? バタイユはどうだ? サン=テグジュペリは知ってるか? カミュはもちろん読んでるよな。そうやって約二十年来生きてきて口にした台詞がこうだ。『もっといい本を読みなよ』。ラ・ロシュフコーがそう言ったのか? それともサルトルが? どこのどいつがそんなご立派なことを? 来週にはプルーストでも読んでこう言うのか。『もっといい本を読みなよ』って。確かにこれはそんなにいい本じゃないようだ。だけどそれは俺とサリンジャーの間だけでの話だ。いいか、俺がこいつを読みながら話してる相手はあんたじゃなくてサリンジャーなんだ。あんたの言葉なんて聞いちゃいないんだよ。それだけ分かったらさっさとその名著のページを右から左へ捲る仕事に戻りな」
学生は言った。
「僕は二十三だ。二十じゃない。それにプルーストはもう読んだ」

思ったよりいい火掻き棒が手に入った。考えに専念してみるもんだ。

ブルース・スプリングスティーンの『The River』を聴く。二枚組で、一枚目がすごい。最初から最後まで11曲見事に良作揃い。中でも「Hungry Heart」は神曲、いわゆるダンテ。「The River」は曲もさながら歌詞がいい。スプリングスティーンの歌詞は小説に近くてあまり詩的ではないけれど、きちんと物語があり印象的な場面があり痺れる一節があり。それも曲にかなり合っている。二枚目も悪くない。お得意のど真ん中直球のロックの「Cadillac Ranch」と「I'm A Rocker」や、8分もあるのにだれないというか最初から最後までだれっぱなしというかそんな具合の「Drive All Night」や、「Fade Away」と揃っている。でもやっぱり一枚目が傑作。全体的にライブっぽい雰囲気なのも好きだ。

さよなら絶望先生』13巻を読む。康治君いっぱいいっぱいやが。懐かしいな田中陽子

ミートソース作りまくり。