Well now everything dies baby that's a fact
But maybe everything that dies someday comes back
Put your makeup on fix your hair up pretty
And meet me tonight in Atlantic City

Bruce Springsteen "Atlantic City"

『Nebraska』ではこの曲が一番好きだが、国内のサイトにはあまり情報がない。というか『Nebraska』自体が人気がないらしい。『The River』と『Born In The U.S.A.』という傑作の間にあって、アコースティックかつ暗い内容のアルバムなので仕方がない。俺も『Nebraska』が好きで好きでたまらないというわけではないのだし。しかし「Atlantic City」は好きで好きでたまらない一曲なので、時折聴きもする。
Well they blew up the chicken man in Philly last night now they blew up his house tooなる一節でこの曲は始まる。この箇所の、chicken manの示すところが今一掴めなかった。それで海外のサイトを調べてみたところ、どうもPhilip Testaというマフィアのボスの渾名のことみたいで、彼は南フィラデルフィアで家ごと爆破された。要は実際に起こった事件が題材になっているらしい。「Atlantic City」の前、『Nebraska』の一曲目にして最も有名であろう曲「Nebraska」がCharles StarkweatherとCaril Ann Fugateをモチーフとしているように。こういう時、英語がもうちょっとできれば、もっと色んなことを知ることができるんだろうなと思う。
「Atlantic City」はベスト盤で二度も取り上げられているし、ライブ盤でも三度取り上げられている。『Nebraska』からのファーストカットシングルでありミュージックビデオまで作られているのだから、結構人気曲であるようだ。というか『Nebraska』の代表曲といっていい扱いじゃないか、これ。「Nebraska」はシングルカットされてない。日本での人気の差は、やはり題材となった事件の知名度の差か。というか『地獄の逃避行』のおかげなのだろうか。
「Atlantic City」の何がいいかって歌詞がいい。ここで描かれる街のどうしようもなさと、そこを逃げ出そうとする男女の悲壮感は同じくBruce Springsteenの名曲「Born To Run」のようでもある。こういうのに弱い。十中八九うまくいきっこないのに、そうせざるを得ない感じ。
歌詞がいいと言っておいて何だが、基本的に俺は曲を聴くときに歌詞を読まない。日本語の曲でも、たとえ何度も聞いた好きな曲でも、歌詞を知らないというのはよくあることだ。たとえば「Man In The Mirror」はMichael Jacksonの曲では「They Don't Care About Us」に次いで好きで、高校生の頃から聴いているものの、昨年末に友達がカラオケで歌っている時に初めて歌詞を読んだ。感動した。よくあることだ。以前、音楽の趣味を訊かれた。Bob Dylanが好きだと答えた。だけどあんまり俺が歌詞を知らず、興味すら抱いていないので、大変訝しまれた。「じゃあBob Dylanの何が好きなんだ?」「音楽」よくあることだ。彼らに見えているものが俺には見えていないし、彼らに聞こえているものが俺には聞こえていない。そういうものだ。
そんなわけで「Atlantic City」も曲から好きになったが、『Nebraska』で初めて聴いた時は何ということのない一曲だった。今でこそ『Nebraska』のバージョンをよく聴くとはいえ、このアルバムはアレンジが地味なので。それが味といえば味ではある。とにかく、『In Concert』に収録されているバンド形式のアレンジ、これでハマった。『Live in New York City』も似たようなアレンジ。『Live In Dublin』ではこのアルバム全体がそうであるように、かなり黒っぽいアレンジで殆ど別の曲。これはこれで。
丁度二年前、十代が終わろうとしている時期、Neil Youngの「Heart Of Gold」を聴きながら病院へ通っていた。「Atlantic City」を聴くようになったのはそれから暫くしてからだったが、悪くない気がしたものだった。